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認知症ふたりの「面会」(その2)
認知症介護【69】
「
トキ姉さん、私がわかる?」ババが聞いた。
「
・・・」トキさんは何も答えない。
「
▲▲▲(家名)のトキ姉さんだよね?私だよ!●●●のユナチだよ!」
「
・・・・・・」 トキさんが首を傾げる。
「
エ・・・・わからないのかねぇ?・・・」
「
姉さん、田舎に帰ってこようと思ってねぇ。最近お母さんが亡くなったから墓参りをしてこようと思うのよ。」 (ババのお母さんが亡くなったのはもう66年も前のことだ。)
「
田舎には帰らないほうがいいよ!」 なぜかトキさんがそう答えた。
「
・・・・・・」
「
姉さんの姉妹で、ほらあの一番下の可愛い人がいたでしょ?」
「
・・・・・・」
「
■■■のノリコはどうしているのかねぇ?○○○のハル姉さんは去年亡くなったよ!」
「ア、お母さん?ハル伯母さんが亡くなったのは先月だったネ」
「
姉さんとは7歳の頃から毎日会っていたね。草刈りも2人でよくしたねぇ」
「えっ?お母さん?草刈りって何のため?」
「
牛に食べさせるのに決まっているじゃない!アホだね!」

「失礼しました!ふ〜ん・・じゃ2人で一緒に刈っていたの?」
「
そうだよね〜?姉さん?」
「
・・・・・・」
「おばさん、この顔って見たことある?」私はババを指して聞いた。
「
うん、見たことあるよ」
「お昼のご飯はおいしかったですか?」
「
おいしかった・・」
「
姉さん、今も洋裁している?」
「
うん、しているよ」
トキさんはずっと洋裁をし、洋服店を営んできた。
その後もババはほとんど1人で話し続けた。話しかけても話しかけても反応は少なく、一方通行で会話らしい会話にはならない。
「
姉さんとは7歳の時から一緒に遊んでいたのよ。」
突然ババが反対側に座っている方達に話しかけた。誰も見ていないし、聞いていない。当然反応はない。それからまたババはトキさんの方を向いておしゃべりを続けた。まるで話の止め方を知らないかのようにずっとずっと1人で話し続けた。いけない・・・ババが動揺してしまっている。完全に平常の状態ではない。
私は嫁いでから何回かババと一緒に病院や施設などに面会に行ったことがある。でもババはあまり相手の方と落ち着いて話をすることもなく長居はしなかった。「さあ、もう帰ろう」と決まって私を促す。私はそれが不思議だった。優しく言葉をかけてゆっくりすることをしない。ババはクールなところがある人なのかなあと思っていた。
脳梗塞で倒れ、心にバリアを貼れなくなったババが私に打ち明けた。「
私は自分がこの歳になるまで元気で、大病を患ったことがないせいか、病気になった人の痛みやしんどさやつらさがわからないのよ。わかってあげられない。だからお見舞いに行っても何て言ったらいいのかわからなくてねぇ・・・。」 私が裸のババを知ったのはその時だ。そして長年ババのスタイルは保たれてきた。不器用なババ。そのババが今一生懸命話題をさがし、返事がなくても話しかけ続けている。ババにとってトキさんと一緒に過ごしてきた時代はかけがえのない、本当に大切な時代なのだろう。
私はもっと早くに2人を会わせてあげるべきだった。ババが過ぎた日々をトキさんと語りたいと夢中で話しかけているのに、その想いがかなえられない!幼い頃の思い出を共に語り合うことができない!すぐ側にいるのに・・・!私はどうしたらいいかわからなかった。せめて思い出に2人の写真を撮っておこうと思った。
どのくらいかの時がたち、ババが話し続けることをやめた。そして私に言った。「
もう姉さんも疲れるから、帰ろうか・・・」私が頷くと「
姉さん、もう帰るわね。また来るから・・・」とトキさんの手を握った。その時だ。突然トキさんが「
ワぅぅぅぅーーー!」と悲鳴にも似た大きな声で何かを叫んだ。あぁ、トキさんも何かを感じてるんだ!!認知症って何?認知症ってこんなにもつらいもの?苦しいもの?
帰り道、そして家に帰ってからもババは「
仕方がないわよね。もう2人とも100歳に近いんだものね。これが普通よね。しようがないよね。」「お母さんはしっかりしているよ!歳なりに物忘れはするようになったけど・・・。」「そう・・・」
夜、ババの部屋の戸を開けるといつもなら横になっているババがベッドに座り、聖書を広げていた。
2006年05月09日 | 認知症介護・日常_1 | トラックバック:0 | コメント:2
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こんばんは。
私も昔教会に行っていたことがあるのでババちゃんの『聖書を広げたい気持ち』がわかる気がします。うちの婆もオモロイですが、しばしば当り散らします。そんな時どこかで『浄化』したくなります。心の洗濯っていうか。
認知症だと具体的なことは覚えてないけど『これは大切』『この人とはコワイ思いした』とか漠然と覚えていますもんね。そんな中で『聖書を開かなきゃ』って感情を抱いたババチャンが私は好きです。
reeさん
そうですね。ババは心を沈めたいときとか、苦しくてたまらない時聖書を開いているようです。一番状態の悪かったときでも無意識で触っていました。
幼なじみが自分を覚えていなかったことはよほど応えたようです。それと「自分も」というわけのわからない不安があるようでした。感じるんですよね。
【2006/05/12 00:18】
| chicyan [
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